子供の一分

「あれ、旦那もしかして背伸びた?」
 それは続く日常の中で気づいたとても些細な変化。
 しばらく前までは主と話そうとすれば心無し見下ろしがちだった視線が、ふと気づけば同じくらいになっていた。
 自分がこの主に仕えたのはまだ幸村が弁丸と名乗っていた頃の話だ。
 おかげで幸村が元服するまでは従者、というよりもむしろ傅のように接してきた時間の方が多い。そのせいか佐助は幸村に忍として仕える気持ちと併せて多少の親心のようなものがあった。
 年下の者に背が追いつかれるという男としての悔しさが無いとは言わないけれど、そんなことよりも主の成長を喜ぶ感慨の方が大きい。
 いやー月日が経つのは早いねえ、俺様今まで全然気づかなかったよ、などと年寄り染みた台詞を零しながら佐助は改めて幸村を見る。
 元服してもう何年も経つ主に、失礼かもしれないが本当に大きくなったものだと佐助は思った。
 出会った時には自分の腰ほどしか幸村の背はなかったのだ。目に見える共にいた時間の長さに驚きと歓喜が佐助の胸を占める。
「なんだ、佐助は気づいてなかったのか」
「何、旦那とっくに知ってたの?」
 だが、佐助のそんな驚きは幸村にとっては既に当たり前の事実であったらしい。
「ああ、俺の知っている限り既に二月程は経つと思うが」
「えっそんな前の話なわけ!?」
 旦那よく気づいたね、と少しの驚きを混ぜて返すと幸村は何故かとても誇らしげに笑った。
「これでやっと追いつけたと思ったのだ」
 向けられたのは笑顔。
 だが、それは佐助が知る真田幸村の顔の中で最も凛然としたものだった。
「やだねー今さらなに言ってんのさ、旦那は俺なんかよりずーっと強いでしょうが。追いつくも何も……」
「強い弱いの問題ではない。俺の気持ちの問題だ」
 どこか気勢を込めるように幸村は語る。
 その言葉に何がしかの真意があるのは分かったが、その意味までは汲み取れず、佐助はただ首をひねるばかりだった。


旦那が小さいときからずっと佐助との身長差気にしてたら可愛いな~の気持ちで書いた話でした。

20070212