わたしの髙羽

「──っていう感じで髙羽が彼のプロ意識に感心してたんだけど、プロ意識っていう意味では髙羽だってしっかりしてると思うんだよね。それなりに仕事がもらえるようになって金銭面が安定した髙羽がまず最初にしたことが全身脱毛だったんだけどさ、知っているかい、彼はあの衣装を着はじめた頃から衣装から見える部分だけではなく見えない部分もぜんぶ剃っていたんだ。リスペクトしていた彼がそうだったからね。神は細部に宿るとは言うけど、そういう見えないところまで手を抜かない姿勢は素直に褒められるべきだと思っているよ。だから毎回剃らなければいけない手間が減る利点と生涯この衣装を着つづけるという決意を込めて全身脱毛に踏み切ったみたいなんだ。全身脱毛というか最初はVIO脱毛だったんだけど、脱毛をはじめてしばらくして朝の帯番組のレギュラーが決まったから少しでも朝のお茶の間に不快なものは見せないようにと結局VIOから全身になった。まあ流石に朝の番組であの衣装は着ていないから結局はほぼ精神面の問題なんだけど、そういうとこ変に真面目だよね。もちろん彼のそういうところ私は嫌いじゃないよ。生来の真面目さが変な方向に走って予想外な結果になるのは見ていて面白いし。彼のファンもそういったところが好きなんじゃないかな。あと根本的なところで人の良さがにじむところとか。売れはじめはリアクション芸的なものに注目されていたけれど最近は性格面含めてのファンも増えたし。そういうタイプのファンが増えたのは相方としても喜ばしいことだね。ただ正直なところ喜べないファンというのもいる。彼ときどき子どもみたいな喋り方になるだろ。あれ恐ろしいことに素なんだよ。意図してやってない。通常運転があれ。タチが悪いと思わないかい。ああいうのが良くないんだよ。だから変なファンがつく。せめて私の前でだけにして欲しい。顔だってお世辞にも百人が百人見て美しいなんていう顔じゃないけど愛嬌だけは溢れてるでしょ。それなりに鍛えた身体と愛嬌のある顔とたまに出る子どもみたいな口調。そのせいで変なファンどころかストーカー予備軍みたいなのに好かれる。おかげで一回刑事事件になりかけたからね。まぁそれは内々で処理したから大ごとになる前に未然に防げたんだけど。それにしてもそれがきっかけで髙羽があの年季の入りまくったアパートからうちに引っ越すことになったんだから人生なにがどう繋がるか分からないよ。その点だけはストーカーに感謝しないでもない。本当だったらあってなきが如しの命に価値が生まれたんだからストーカーの彼も本望だろう。そういえば引っ越しのときに改めて気づいたんだけど髙羽ってけっこう物持ちがいいんだ。未だに学生のときの体操着を部屋着代わりに着ているし、何年も前に打ち上げのビンゴで当てた抱き枕まだ持ってたし。まぁ体操着はともかく抱き枕のほうはうちに来て早々にお役御免になったけど。引っ越しが結構急だったから引っ越してしばらくは一緒のベッドの寝ることにしたんだけどさ、余分な布団とかなかったから。でも思いのほか髙羽の抱き心地が良くて結局いまもそのまま一緒のベッドで寝てる。さっきも言ったけど彼、全身脱毛したでしょ。むだ毛のない身体ってあんなに触り心地がいいものなんだね。あのつるすべの触り心地の良さは筆舌に尽くし難いよ。寝ているときなんか無駄に触ってしまうもの。あ、いや私と髙羽とのあいだに無駄なものなどなかったな。あれは必要なコミュニケーションだ。よく考えたら私の生活のQOLの一端を担っているようなものだし。仕事上でどんなストレスがあろうとも夜に髙羽を抱いて寝れば大体のストレスはリセットされるからね。子ども体温だから特に冬なんかは重宝する。抱き心地に関しては触れているときの感触もだけどサイズもそうだ。髙羽は決して小柄な方じゃないけれどあのサイズ感だからこその良さというものがある。腕の中がぜんぶ埋まる感じ。私のために誂えられた感すらあるよ。髙羽と触れている面積が大きければ大きいほどいいからね。筋肉質の男の身体なんて抱いて何がいいんだ、などと思う輩もいるかもしれないがそういうやつは彼の筋肉が寝ているときどんなにふにふにしてるか知らないんだろう、可哀想に。髙羽のあの抱き心地の良さを知らないなんて人生の十割は損しているよ。まぁ私以外の誰にも抱かせる気はないんだけど。同衾継続を決めた当初は色々と抵抗されたけれど今から考えてもかわいいものだったな。今なんかもう慣れきって髙羽から抱きついてくることもあるくらいだし。私のほうが起きるのが早いから一回ベッドを抜け出してあとで髙羽を起こしに行くことが結構あるんだけどね、そういうとき決まって髙羽がまだ眠りながら私が寝ていたところを手で探っているんだ。子どもがぐずったみたいな顔をして。だからそういう時はその手を握ってあげるんだけどそうすると安心したみたいに顔が緩む。ほんと馬鹿みたいな顔。馬鹿みたいにかわいい。かわいすぎてこっちの頭が馬鹿になる。すごいよね、不快にならない馬鹿っていうのもあるんだ。私は髙羽と出会うまで知らなかったよ。いっそあの寝顔は不快どころか人を救えるんじゃないか。少なくとも私は救われている。馬鹿は人を救う。果たしてこれは私だけが知らなかった普遍的な事実なのか、それとも髙羽だけが例外なのか。ちょっといい機会だから聞いてみたいんだけど五条悟、君はどう思う?」
「…………なぁ、惚気なのか何なのか分かんないくそみたいな話を延々聞かされて最終的に出てきたのが更にくそみたいな質問なんだけどこれなに? なんの時間? 結局、話の要点は何なんだよ」
「要点? 要点なんてひとつしかないよ」
「は?」
「私の髙羽がかわいいって話」

 ──以上がラジオ、オールライトニッポンのスペシャルウィーク祓本&ピンチャンMCシャッフル企画の五条&羂索回の一幕である。
 スタッフの心労も虚しく大方の予想通りこのあとは五条がキレ散らかすこととなり、徹頭徹尾この放送は混沌を極めた。前々日に放送された夏油&髙羽回は終始平穏に終わり放送後も何事もなくフルでポッドキャスト配信されたが、放送事故が多発した五条&羂索回は内容がほぼカットされポッドキャスト版の収録時間は正味十分もなかったそうである。
 ちなみにリアルタイムリスナーしかノーカットで聞けなかったこの回は、のちにピンチャンファンのあいだであらゆる意味で伝説となったそうだ。


書いてて楽しいしゃべくり羂索

20240222