とどめのプレゼント

※羂髙未満
※付き合ってない(ただの相方の)二人のはなしです



「癒やしが欲しい……」
 と、楽屋のテーブルに突っ伏しながら羂索が言った。
 羂索の前に座る髙羽から見えるその姿には全体的に倦怠感が漂っている。部屋はしっかりと電気に照らされており明るさで満ちているというのに、何故だか羂索の背中だけが暗く見えた。ひとことで言えばどんよりとしている。
 起きることすらしんどい、と言わんばかりの羂索を前に、楽屋弁当のカレーを頬張っていた髙羽はもぐもぐごくんと口の中のものを嚥下してから口を開いた。
「癒やしってどんな?」
「……具体的にわかっていれば君にこんなこと愚痴ってないよ。正直、疲労感でどうしたら癒やされるか考えることすら億劫なんだ。とりあえず動かず黙って受動的に癒やしを得られるものがいい。もっと言えば時間のかからないもの、それでいて今すぐできて、今後も恒久的に、そして私が癒やされたいと思ったときにすぐに実行できるものがいい」
「ハードル高くねぇ……?」
 電池が切れたように伏せたまま動かず、それでもしっかりと要求条件を述べる羂索に髙羽の当惑した声が落ちる。
 髙羽と一緒にいるときは生き生きしていることが多い羂索がこうも憔悴している姿を見るのは珍しかった。だがまあ、それもここ数週間の忙しさを顧みれば無理もないことではある。
 髙羽たちのコンビ、ピンチャンがC-1で敗者復活を決めて決勝進出したのは去年末のことだ。
 決勝戦には進んだものの、決勝用のネタが尖っていたため結果は三位に終わったが、ありがたいことに仕事はそこからばんばか増えた。決勝戦でひとつも票が入らなかったにも関わらず、こうまで仕事が増えたことに当時の髙羽は首を傾げたが羂索曰く、尖ったネタをやったことが逆に功を奏したらしい。無難なネタをして無難な結果に終わるよりも、尖ったネタで爪痕を残した方が記憶にも話題にも残りやすい。おかげでC-1以降スケジュールは順調に埋まり、二月半ば現在においても二人は休みがほぼない生活を送っていた。
 そもそも売り出し中のお笑い芸人にとって年末年始は、一年で一番といっていいほど忙しい時期だ。年末特番、年始特番。収録と生放送が次々に襲いかかり、目まぐるしく過ぎていく繁忙期。例年だったら年が明けてしばらくすればそこで一旦、仕事は落ち着くのだが、今年はC-1の件があったのでそう簡単にはいかなかった。
 例年のルーティンだったら貰えたはずの休みが流れに流れて、ここ数週間は丸一日オフどころかは半日のオフすらほぼなくなっている。しんどいかしんどくないかで言えば確実にしんどい。しかし、三日後にやっと一日半のオフが貰えることになったので髙羽はそれを目指して頑張っていた。体力はある方なのでまだ多少なりとも余裕はある。流石にこれがあと一瞬間以上続くとなったら自分でもどうなっていたか分からないが、あと三日だったらなんとか頑張れる。一日半も休みがあればきっとそこである程度疲れも取れるはずだ。
 ──と、そんなことを考えながら髙羽はここ数日、仕事をこなしていたのだが、残念ながら羂索はそうはいかなかったらしい。おそらく、体力的にも精神的にも回復が追いついていないのだろう。元々、体力に関しては髙羽の方に分があるのだ。その髙羽でさえ疲労度七十パーセントくらいまでには疲れが溜まっているのだから、よくよく考えたら羂索がこうなるのも無理はない。
「収録まだ残ってるけど大丈夫? がんばれそう?」
「私だってプロだからいくら限界でももらった仕事はちゃんと全うするよ。だけど正直このままだと終わったあと家に帰れる気がしない……」
「そんなにかぁ……」
 羂索の仕事に対する姿勢については信頼をおいているのでその点に関しては心配していないが、この様子を見ると羂索自身が心配である。なにしろオフまであと三日もあるのだ。
 今日の楽屋弁当は好きなカレー店のものだったからできれば温かいうちにしっかり味わっておきたかったけれど、髙羽はひとまずスプーンを置いた。
 好きなお店のお弁当よりも自分の空腹よりも、元気のない相方の方が大事だ。そもそも羂索がこんな風に分かりやすく疲れを見せて弱音をこぼすこと自体が初めてな気がする。真摯に向き合ってやらなくて何が相方だ。
 だが、そうは言っても髙羽の容量の多くない頭で羂索の条件をクリアする癒やしなどそう簡単に思いつくものでもない。
 癒やし、癒やし……と胸の中で呟きながら髙羽は後ろ手をつき、天井を振り仰いだ。
 自分は羂索と比べて単純だから、体力的な疲労は眠るだけで十分とれるし、精神的なものも好きなお笑いのDVDでも見れば簡単にどこかに飛んでいってしまう。あと、恥ずかしくて本人には言ったことがないけれど、羂索の存在自体に癒やされている、というか救われている部分も多かった。
 その日どんなに疲れたとしても、その日どんなに大変なことがあったとしても、また明日現場に行けば羂索に会える。羂索と一緒にお笑いが出来る。そう考えるだけで、身体の疲れも精神的な疲れも簡単に吹き飛んだ。自分の足りない部分やダメな部分に対する容赦ない指摘に泣きたくなることもあるけれど、髙羽は羂索が自分と同じ熱を持って同じ方向を見ているのを知っている。今となっては精神的な癒やしとなっているお笑いのDVDだが、一時期はそれを見るだけでもつらいときがあったのだ。
 だけど、いまはそんなことは全くない。ぜんぶ羂索のおかげだ。羂索が変えてくれた。羂索が自分のなかの寂しいをなくしてくれた。
 舞台袖に立っているときや収録の前に緊張している髙羽の隣に立って、ぽんと背中を叩いてくれる手にだって何度救われたか分からない。こちらを見る目にもかける言葉にも優しさなんて欠片もないのに、身体に触れる手はいつだってあたたかくて、いつだって自分の緊張や不安を溶かしてくれた。癒やしというのなら、きっとあれも自分のなかでは癒やしに入るのだろう。
 ──と、そこまで考えて、髙羽のなかに昔聞いた単語がふっと浮かんできた。
 タッチセラピー。
 自分が子どものとき、母親が子どもに薬を塗るコマーシャルの映像とともに聞こえてきたその単語。ちゃんとした意味や効果を知ったのは大人になってからだったけれど、聞くところによると親しい人と触れ合ったり、ハグをしたりするとオキシトシンが増え、やすらぎや癒やし効果が得られる、らしい。
 これだったらすぐに実行できるんじゃないか、と髙羽は思った。
 髙羽が羂索に触れるだけでいいのだから、羂索は動く必要がないし、受動的に癒やしを得たいという羂索の要望にも合っている。
 時間もかからない上に自分と羂索は休み以外は──日によっては休みでも、一緒にいるから、恒久的に且つ羂索が癒やされたいと思ったときに簡単に実行できる。効果のほどは、羂索に触れられたことのある髙羽が身をもって知っている。
 タッチセラピーの「親しい人」という部分についても、羂索が髙羽のことをどう思っているか、親しいと思ってくれているか直接的に聞いたことはないけれど、羂索だって多少なりとも好ましく思っていなければなにも用事がない休日にわざわざ髙羽の部屋に来たりはしないだろう。だからたぶん自分がやっても効果はあるはずだ。考えれば考えるほど、これ以上の解決策はないように思えた。
 思いついたら善は急げ、とばかりに髙羽は立ち上がった。羂索の隣に膝をつき、膝立ちの状態になりながら生気のない背中に声をかける。
「羂索、ちょっと身体起こせる?」
「……なに?」
 顔だけ上げてこちらを見上げた羂索の目は若干死んでいた。目の下にクマはないものの瞳の濁りっぷりがすごい。
 果たして楽屋に入る前の羂索はこんなにくたびれていただろうか。楽屋に入ってからの数分間で一気にくたびれ感が増してないか、これ。
 だがこんなに疲れているのなら、なおさら早くやったほうがいい気がする。のろのろと身体を起き上がらせる羂索を前にいざタッチセラピー! という段階になり髙羽は、はたと気づいた。
 ──そういえば触れるって、どういう風に触れればいいんだろう?
 髙羽は羂索にかるく触れられるだけでも効果を感じたが、これだけ疲れの溜まっている様子を見ると少しでも効果の高い触れ方をしてあげたほうがいい気がする。こういうのってやっぱり触れる面積は小さいより大きいほうがいいのだろうか。タッチセラピーのことをそこまでよく知っているわけではないし、正直にいえばオキシトシンという言葉の意味だってよく分かっていないけれど、なんとなく大きいほうが効果があるような気がする。
 ってことはハグか。決して見目麗しいとは言えないおっさんが成人男性を抱きしめる姿を想像して、ハグかぁ……と、思わないでもなかったが、一旦その光景の寒さは無視した。別に誰に見られるものでもないし、羂索が癒やされればそれでいいのだ。まあよくよく考えたら親しい人、という問題はともかくおっさんに抱きしめられて癒やされるかという問題が浮上したけれど。というかコントでも漫才でもない素の自分の状態で羂索を抱きしめることを改めて認識したら言葉にならない気恥ずかしさがじわじわと生まれてきた。これやっぱりこのまま抱きしめるのは無理な気がする。せめて多少なりとも役を被りたい。成人男性を抱きしめても無理のない役、無理のない役──そうだママだ……! ママになればいいのだ……!
 男なんて所詮ロリコンかマザコンのどっちかよ、とミル姉さんも言っていた。ロリになるのは例えおふざけででも難しいがママくらいにだったら何とか、ギリギリ、たぶんギリギリなれる気がする。これだったら、もし羂索が自分に抱きしめられて癒やされなくても、いつもの「あのさぁっ」からのダメ出しが始まると思う。動かず黙って、という羂索の要望からは外れてしまうけれど、自分を理詰めで責め立てるときの羂索はある意味生き生きしているから最悪それで少しは癒されてくれるかもしれない。自分が心のなかで泣く羽目になるのは我慢しよう。なんたって大切な相方のためだ。
 ない頭を必死で働かせながらそんなことを考えていると「……髙羽?」と名前を呼ばれた。人を起こしたのに、黙ったまま何もしない髙羽を羂索が訝しげな目で見上げている。
「あ、ごめん……! ええっと、座ったままでいいからちょっと身体ごとこっち向けてもらっていい?」
 普段、自分を前にすると意気揚々ときらめく瞳の輝きを知っているだけに、羂索のこの姿は痛ましいものがあった。髙羽のなかに庇護欲のようなものが微かに生まれる。幸いなことに、髙羽の被りたい役になるにはちょうど良かった。
 また変に冷静になって恥ずかしくなってしまう前に、と髙羽は正面からぎゅうと羂索を抱きしめた。突然の行動に羂索が息をつめたのが分かる。だが、ここで怯んではならない。いま羂索を癒やすことができるのは自分しかいないのだ。髙羽はタッチセラピーを遂行するべくそのまま口を開いた。
「羂ちゃん本当にお疲れ様。年末からずっと仕事の連続で流石の羂ちゃんだって疲れたわよね。特に最近はロケで地方に飛ぶことも続いてたから、家にだってほとんど帰れなかったもの。休みたくても休めない状況が続いてたのにここまで疲れを見せないで頑張ってたの、ママ本当にすごいと思ってるわ」
 髙羽の行動におそらく驚きでかたまったままの羂索を抱きしめながら、髙羽は自分の胸のあたりにある羂索の頭をぽんぽんとやさしく叩いた。
「体力的に疲れてるところに、髙羽くんのフォローもしてるのだからそれはへとへとにもなるわよね。本当に髙羽くんのことよく見てくれてる。恥ずかしくてちゃんと言えていないかもしれないけれど、そういうところ本当に感謝してるって髙羽くん言ってたわ。自分の気づけないことに気づいて手を回してくれたり、さり気なく支えてくれたり、助けられたことを数えたら切りがないくらいだって。もちろん髙羽くんも羂ちゃんのそういうところを頼りにしてるのだけれど、もうちょっとくらい弱音吐いたってママはいいと思うわ。相方なんだもの。ふだん髙羽くんのフォローいっぱいしてるんだから、疲れたときくらい頼っちゃいなさい。羂ちゃんのやってること髙羽くんがまるまる肩代わりするのは難しいかもしれないけれど、こういう風に抱きしめたり、抱きしめられるのが嫌だったらマッサージさせるとかでもいいし、髙羽くんなりのやり方で羂ちゃんの疲れを癒やすことくらいは出来ると思うの」
 そこまで言い切って髙羽は一旦、口を閉じた。
 どうしよう。羂索からまったく反応がない。
 髙羽が抱きしめて以降、羂索は動かず、喋らず、ただ黙って髙羽のされるがままになっている。時が止まったような羂索の様子に、髙羽の胸はじわじわと不安に覆われた。
 果たして、このまま羂索を抱きしめてママを続行してもいいものなのだろうか。ここまで静かだと呼吸をしているのかどうかすら心配になってくる。おっさんに抱きしめられたことがショックで仮死状態になっている、とかだったらどうしよう。癒やしどころか、疲労困憊の羂索にトドメの一撃を与えたのが自分だったら余計なお世Wi-Fiどころの騒ぎではない。
 髙羽は抱きしめてからずっとよしよしと、羂索の頭をたたいていた手を止めた。
 改めて考えなくても、いくらママになったところでおっさんに抱きしめられて癒やされるはずもなかったのだ。そもそも自分が羂索に触れられて効果があったからといって、それが羂索にも適用される保証なんてどこにもない。
 今になって反省と後悔が押し寄せたが後の祭りだ。失敗に終わったタッチセラピーに、髙羽はひとまず離れようと羂索の肩に手を置いた。
「……ごめん、羂索。やっぱりこれはな、うひょぅおわぁああああああ……!!」
 なかったよな、と続けようとした言葉は突然動き出した羂索の腕と呼吸に阻まれた。
 さっきまで無造作に落とされていた羂索の腕が自分の腰にがっちりと回り、胸に顔を埋めたままの羂索からすぅぅぅぅぅぅはぁぁぁぁぁぁというやたら大きな深呼吸の音が聞こえた。
「ひっ、ちょ、羂索……!?」
 髙羽の呼びかけにも答えず羂索はひたすら深呼吸を続けるばかりで、いまこの場に聞こえるのは髙羽の混乱に満ちた声と羂索のすぅぅぅぅぅぅはぁぁぁぁぁぁという呼吸音だけだ。
 今まで無反応だった人間が突然動き出したのも怖ければ、意味もわからず無言で深呼吸をされるのも怖かった。おっさんに抱きしめられた不快感を恐怖感で返そうというのならこれ以上ないくらい成功しているが、果たして羂索の真意はそれなのか。こたえがないせいで、何もかもが分からない。とりあえず何でもいいから喋ってほしい。
「け、羂索まじでなに……!? とりあえず一回はなれ、ってうわっぜんぜん離れねぇ……!!」
 喋らないなら喋らないで離れてもらおうとしたが、腰に回った手は髙羽がどれだけ力を入れたところで離れなかった。さっきまであんなに死に体だった男のどこにこんな力が残っていたのだろう。これなら自分が心配しなくても家に帰る力くらい残っていたんじゃないのか。髙羽がそんなことを考えながら藻掻いている間も、羂索は深呼吸を続けている。こわい。頼むから本当に喋ってくれ。
 なんとか羂索の腕から逃れようと必死の努力を続けたせいで、不意にバランスが崩れた。背中から後ろに倒れ込み、ごちんと頭をぶつけた髙羽の目にちかちかと小さな星が飛ぶ。
「~~~~っいってぇ」
 二人分の体重が乗った頭の痛みにじわりと眦に涙が滲んだ。頭に手をやりながら痛みに苦悶していると、突然ふっと身体が軽くなった。気づけば、いつの間にか起きあがった羂索が据わった目でこちらを見下ろしている。
「け、……羂索さん?」
 呼びかけても相変わらず返事はなかった。整った顔に無表情で見つめられるというのはそれだけで恐ろしいものがある。口から先に生まれたに違いないと、確信するほど普段はよく喋る男が無言でいるのだからその怖さは推して知るべしだ。
 恐怖体験の連続と名前を呼んでも反応すらしない羂索に髙羽が身を固まらせていると、おもむろに羂索が動いた。
「え、けんじゃ……っておわぁああああああああああああ!!!!」
 前触れもなく動き出した羂索は髙羽のシャツをべろりとめくるとその中に頭を突っ込んだ。胸元でまたやたらでかいすぅぅぅぅぅぅはぁぁぁぁぁぁが聞こえて、髙羽の背にぞぞぞと筆舌に尽くしがたい怖気が走った。直にあたる熱い息がこそばゆいし、気持ち悪いし、何よりも行動の意味が分からないのが怖すぎる。幸か不幸か、今日着てきたシャツはサイズが大きめのものだったから羂索が潜り込んだところで破れることはなかったが、いまの気持ちとしては不幸一択だった。こんなことになるのなら大きめのシャツなんか着てくるんじゃなかった。シャツのなかに潜り込んでいるせいでさっきよりも抵抗がしにくい。なんとかならないものかとシャツの上から羂索の頭を押してみるが、微塵も動く気配がなかった。
「け、羂索、一回! い、一回深呼吸やめよう! な!? もうこのさい離れなくてもいいから……! あと頼むからなんか喋ってくれよ……!!」
 いくら藻掻いても羂索は離れず喋らず、髙羽の心からの叫びと相変わらずの深呼吸が楽屋に響くばかりだ。
 一縷の望みをかけながら羂索に呼びかけ続ける髙羽の声が段々と涙まじりになってきた頃、外から何かが走ってくるような音が聞こえた。
「髙羽、なんかさっきからお前らの部屋からすげぇ声が聞こえてきてるけど大丈、……あ」
「あ」
 突然開いた楽屋のドアから今日の収録で共演していた先輩芸人の顔がのぞいた。
 声の方に自然と目をやった髙羽と、心配して駆けつけてくれた先輩の目が合い、耳に痛いほどの沈黙が生まれた。お互い声もなく見つめ合う二人をよそに、羂索の呼吸音だけが静かに響いている。
 一秒か、十秒か、一分か。髙羽にもどれだけ時間が経ったのか分からないが、永遠にも感じられた時間が不意に動き出し、先輩がそっと扉を締めた。
「……すまん、邪魔したな」
「ま、待って、お願いだから行かないで下さい……!! いま目合ったじゃないっスか……!」
「悪いな、髙羽。なんのプレイか分かんねぇけど、俺の本能がお前らに関わるなって言っている。俺はこの本能ひとつでここまでのし上がってきた男だ。その声を無視することはできん……っ」
「や、やだぁあああ待ってぇえええ行かないでぇえええ俺を見捨てないでぇええええ……!! ってか羂索オマエもいいのかよアレぜったい変な誤解して、」
「すぅぅぅぅぅぅはぁぁぁぁぁぁ」
「喋れぇえええええええ!!!!」
 この日いちばんの悲痛な叫びが楽屋と廊下に虚しく響き渡った。


 後日、業界のなかでピンチャンの楽屋をノックなしで開けてはならないという不文律が生まれた。
 また更に後日談ではあるが、疲れきった顔で楽屋に入ったと思ったら、数十分後にはやたらつやつやとした顔で楽屋から出てくる羂索が定期的に目撃されるようになったそうである。


ミル姉さんのカリ城回だいすきでした。

20240527