「だからさ、寝ぼけただけなんだって。夢と間違えただけ。深い意味とかそういうの全然なくって、なんつうか、先生をお母さんって呼んじゃった、みたいな、そういう可愛い言い間違いみたいなやつ。だって起きたら目の前にオマエいるし、寝てたのも俺んちの煎餅布団じゃなくて、オマエんちのソファーだったし。たぶんだけどさ、きっと昨日新婚夫婦のネタ考えてたのがいけないと思うんだよな。しかも俺が奥さんでオマエが旦那さん。あと飲みながらオマエのファンの話してたのも悪かったと思う。じゃなきゃ絶対あんな夢見ねぇもん。だからもう一回言って欲しいなんてそんな改まって言われるようなもんじゃないんだって。だってただの言い間違いなんだから。な、だからもう正座して頭なんか下げるなよぉ…… …… ……は? 人にお願いするときはこれが正しい姿勢? ……いやまぁ、それはそうだし、確かに見たことねぇくらいすげぇきれいな土下座だけ……、先輩やプロデューサーにだって絶対に頭下げないくせにオマエのその変な頭の軽さなんなの……? 私も生まれて初めてしてる、じゃないんだよ生まれて初めてをこんなことで使うなよ……だからそもそもオマエの生まれて初めてをもらうほどのことじゃないんだってぇ……なぁ頼むからせめて頭だけでもあげてくれよ、ずっとそんな姿勢してたら絶対足痛くなるし……うん? どんな夢見たのか教えたらその姿勢やめてくれんの? えぇええ……や、やめた方がいいと思うぞ、俺。ぜったい聞いたら後悔するって。そりゃ俺だってオマエにこんなことで痛い思いして欲しくないけど、でも俺の夢の話聞いたら痛いのよりもっとヤな思いすると、……いやそんな、見たことねぇくらい真剣な目で絶対後悔しないなんて言われても……君に誓ってもいいって、いや俺に誓ってどうするよ…… …… …… ……ぁ、……ぅ、うん……そ、そうだけど……確かに大切なものに誓うっていうのは分かるし俺にとってもオマエは大切な相手だけど、……そ、そりゃ、俺にだってオマエは唯一無二っていうか……これからもずっと一緒にいたい相手っていうか、俺にとってオマエ以上のやつなんて絶対いないし…… ……って、……あ、あれ? 何の話してたんだっけ? …… ……あ、そうか、夢の話夢の話…… …… …… …… …… ……あー、……うん…… ……ぅ、ぇ……えっと、その、な…… …… …… …… ……なぁ、羂索オマエほんとに引かない? 俺がどんなひどい夢見たって言っても引かない? ……ほんと? ……ほんとにほんと? 聞いたあとで冗談だったーとかキッショとか言わない? ぜ、絶対引かない? …… …… …… …… …… …… ……う、うん…… ……わ、わかった…… ……なら、言う…… ……っ、で、でも絶対、絶対引くなよ……っ! 絶対だからな……! 約束だからな……っ! …… …… …… …… …… ……ぇ、えっと、あの……お、俺の見た夢は…… ……、その、……俺とオマエが出てきたわけだけど、……夢の中でも俺たちは変わらず芸人やってて、でも今の俺たちよりも仕事が順調みたいで……コンビの仕事どころか、ピンでもいっぱい仕事もらってて、毎日すごく忙しそうで、でもそのぶん充実してて……それで、……なんか…… ……ふたりで一緒に暮らしてるみたいなんだよな。もちろん俺んちみたいな年季の入ったアパートじゃなくて今のオマエんちもっと広くしたようなすごいきれいなマンションで。リビングも広いし、ベッドも広いし、風呂なんか大人がふたり一緒に入っても余裕なくらい大きくてさ、そういうところで俺とオマエが一緒に暮らしてるわけ。朝起きて、一緒に準備して、ご飯食べて、一緒に家出て、帰ってきて。ピンの仕事のときは家出る時間も帰る時間も違うから、どっちかがどっちかのお見送りしたり、お迎えしたりして……でもほとんど俺がお見送りしてお迎えする方だったな。ひとりで仕事行きたくないって子どもみたいな駄々こねるオマエ宥めて送りだすの大変だけどちょっと楽しかった。いってらっしゃい、いってきます、おかえり、ただいま。そういうの俺、今まで誰かに言うのも言ってもらうのもあんまりなかったし。……で、オマエ送り出して俺も仕事行ったり、俺だけ休みだったら家のこと色々したり。そんで夜、オマエが帰ってきたら晩ごはん食べながら今日あったことを二人で話したりしてさ。仕事が充実してるのも忙しいのも二人とも変わんないんだけど、でも羂索は俺よりもっと忙しそうで……、だから俺が晩ごはん作るときはオマエの好きなものいっぱい用意して待ってるんだ。今日も一日お疲れ様って。俺、別に料理得意なわけじゃないしレパートリーだって沢山あるわけじゃないから毎日頭悩ませてんだけどさ、それでもオマエがいつもめちゃくちゃ美味しそうに食べてくれるから料理作るのもすげぇ楽しかった。そんで、たまに二人の休みが被ったときは一緒に出かけたり、スーパーに買い物行ったりもして。……夢の中の羂索すげぇ優しくてさ、さり気なく重い方の荷物持ってくれてたりして、 ……で、一緒に並んで帰って…… …… …… ……だ、だから、 ……こう…… ……なんていうか、……同居っていうか、……新婚さんっぽかったっていうか……いやいや分かってるよ、夢の中にいたときは全然気にしてなかったけどツッコミどころありまくりだし、いくら金稼げるようになって広いマンション住めるようになったっていっても二人で暮らす必要ないし、一緒に暮らしてるからって毎回毎回玄関まで見送りにいく必要もお迎えにいく必要もないし、俺は本当に仕事に行ってたのか? ってくらいほぼ毎日羂索お見送りしてお迎えしてたし、一緒に買い物行くのはまだしもなんで手繋いで帰ってんだよとか、そもそもオマエがあんなに俺のこと甘ったるく呼ぶわけなんてないし、だから俺とオマエが新婚さんってどんな夢だよって思って、 …… ……って、……え、…… ……な、なに羂索。なにそれ。ど、どういう感情の顔なの、それ……。も、もしかして怒ってる? ……うん、まぁそうだよな……やっぱりイヤだよな、こんな夢の話……やめよやめよ。…… ……えっまだ続けんの!? えぇ……もうよくない? だって羂索オマエ見たことない顔してるぞ? それでほんとに怒ってねぇの……? いいからって、いや全然よくない顔だろそれは。……まだ本題にいってない? ま、まぁ確かにそれはそうだけど…… …… …… ……あー、うん、はい、そうですね。…… ……えっと、だから、その……な……な、なんで寝ぼけてあんなこと言っちゃったかといえば、夢の中のオマエは俺のこと下の名前で呼んでて……で、俺も羂索のこといつもとは違う呼び方で呼んでて……だから、あんな風に間違えちゃったっていうか……だ、だって夢の中でもちょうどオマエがうちに帰ってきてソファーでうたた寝してた俺のこと起こしてくれたところだったんだもん……だから、その、間違えて…… ……「おかえり、羂くん」って……言っちゃっただけで……だからもうそれだけ! それだけの話! ほらやっぱりそんな必死になって聞く話じゃなかっただろ? ほんとこんなことで生まれて初めて使ってどうす、……って、え、ちょっと羂索!? ど、どした!? お腹いたい? うずくまってぷるぷるしてるけど……もしかして俺の話で体震えるくらい体調わる、…… ……え、いやだから今言ったじゃん! なんでもう一回言わなきゃなんないんだよ今のでもう充分だろ! これでまた言ったらいよいよオマエにとどめ刺す感じになるじゃん……! ほらぁ、まだぷるぷるしてるし、無理すんなよ、背中さすってやるからまずは深呼吸しようぜ。はい、吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー…… …… …… ……どう? すこし落ち着いた? ……そっか、よかったぁ…… ……って、羂索なんか距離近くない? …… ……えっ……いやいやもうオマエが聞きたいことも俺が言うべきことも何もないだろ……! さっき全部話したじゃん! …… ……へ? 他にどんな新婚っぽいことしてたかって …… …… ……あー……いや、その……もうさっき言ったのでぜん……っ、……し、してない! いってらっしゃいのちゅーとか全然してねぇから! そ、そんなコントでもやらねぇようなべたべたなこと夢の中とはいえするわけねぇじゃん……! ……ち、ちが……っ、 ……お、お風呂だって一人で入ってましたー! 大人がふたり一緒に入っても余裕って言ったのは別に実体験じゃなくて……そ、そもそもいい大人が一緒に風呂に入るわけ…… ……ただの大人じゃなくて蜜月の新婚夫婦…… ……って、違う! いや違くないかもだけど、みみみみ蜜月って……! …… ……わ、わかってるよ! でも蜜月にえっちな意味はなくてもオマエが言うとえっちな意味にしか聞こえないの……! ……あ、ああああ赤くない! 赤くなんかぜんぜんなってねぇから! 俺の顔の色はこれが普通ですぅ! …… …… …… ……は? わかった……? わかったってなにが? ……け、けっこん? …… …… ……って、ぇえええええええ!? な、なんで……!? なんでそういう話になった!? …… …… …… …… …… …… ……えっ…… …… …… …… …… ……ぅ、……うん…… …… ……うん…… …… …… ……ぅ、ぁ、…… …… ……ぇ、えっと…… …… ……でも、…… ……俺たちただの相方で……べ、別に付き合ってないし、 …… ……け……っ、け、結婚っていうなら結婚より前にすることがあるじゃん…… …… ……こういうのは、ちゃんとさ…… ……ってオマエちょっと何してんの……!? いやいやいやいや俺が言ってるのはそういうことじゃなくて……! …… ……な、なんでそうなる!? へいはせっそくをたっと……? た、たっとばない! たっとぶにしたって今はもっと他にたっとぶべきことあるだろ! 俺が言いたいのは好きですとか付き合って下さいとかそういう告白からちゃんと始めようってことで……! だぁああああああ待て待て剥くな剥くな張り合うな! 夢の中の俺たちだってここまではしてねぇよ……!! ちゅーとお風呂と一緒に寝てただけ…… ……って、おわぁああああああああ!! ど、どこ触って……!! や、やっぱりオマエまだ酔ってるだろ!! じゃなきゃ俺のこと抱こうなんてぜった、 …… ……ひぇっ、 ……な、なんで勃って……っ、 …… …… ……ぅ、あ……ぇ、えっと…… ……そ、そうなの……? じゃ、じゃあ、それなら……ってなるわけないだろ!! ばかばかばかばか!! わ、わかった……っ!! オマエが酔ってないのも本気なのもひとまずわかったから……!! だからちょっといっか……っ、ぅ、んん゛ーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
寝起きの髙羽にふにゃっとした顔で「おかえり、羂くん」って言われてバグる羂索が見たかったんですが、書いてるうちに当初の目的を見失った気がします
20241217