エンドロールには早すぎる

 じゃあこっち来て、と導かれた先が寝室で髙羽はまずそこで怯んだ。
「なあ、別に寝室でやんなくてもよくない……?」
 わざわざ部屋なんか移動しなくてもリビングでそのまますればいいじゃん、と髙羽はもごもごと口を動かして視線を彷徨わせた。
 胸から母乳としか言えない何かが出るようになってはや一週間。出し切ってしまえばすぐに収まるのでないかと、自分で胸を絞ってみたり揉んだりしてみたがその結果ははかばかしくなかった。
 誰も見ていないとはいえ自分で自分の胸を弄る背徳感は髙羽には耐え難く、また母乳が出ているせいか普段よりいくらか敏感になっているせいであまり強く触れるのも怖い。おかげでこの一週間まともに母乳を絞り出すことが出来なかったのだ。結局、自分の手で排出するようなことは出来ず、常時とろとろと母乳が滲むままに任せていた。そのせいか出しきれない母乳が溜まってしまい、ここ数日はなんだか胸全体が張ってしまっている。
 じんわりと熱と痛みを覚えだした胸をどうすることも出来なくなった髙羽に救いの手を差し伸べたのが相方の羂索だった。
 仕事にも支障が出そうだったので母乳が出だした時から身体の状態については報告していたが、まさかこんなことになろうとは。なにが哀しくて相方に乳を搾られなければいけないのか。報連相をしっかり行なった自分を今回ばかりは殴りたくなったが、実際問題じぶんで処理できない以上誰かにやってもらわなければいけないのも事実だった。
 羂索以外の誰にもまだこのことは言っていないし、どこか病院に駆け込むということも出来ればあまりしたくない。必要に迫られて羂索にはしたが、成人男性である自分の身体から母乳が出ているということを説明するという行為は、髙羽でなくともそう何度もしたいものではないだろう。
 唯一救いがあるというのなら、羂索は最初に髙羽が話をしたときから真面目に聞いてくれていた、ということだった。こちらの身体のことを問う口調には揶揄や好奇の響きは一切なく、ただひたすらに髙羽の身を案じてくれていた。
 だから、髙羽は羂索の「なら、私がやってあげようか?」の声に躊躇しながらも頷いたのだ。このままだといつまで経ってもあの衣装着れないよ? の声もそれを後押ししたと言える。
 髙羽だって一日も早く日常に戻りたいのだ。何を憚ることなく憧れのヒーローの衣装を着たいし、ちょっとずつ増えてきて楽しくなってきた仕事にも邁進したい。
 だけど、なにも寝室でやらなくともよくない? というのも間違いなく髙羽の本音の一つだった。
 改まって寝室なんかに移動されると相方にこれから母乳を絞られるというシチュエーションに更に居た堪れなさが乗算される気がする。なので、出来れば日常の延長のままリビングとかでやってほしい、と控えめながらに訴えてみたが羂索から返ってきたのは現状を冷静に把握した正論だった。
「君がいいなら私はリビングでも構わないけど、その場合うちに来るたび今日のこと思い出すことになると思うけどいいの?」
「……う゛」
 もっともである。
 髙羽はそこまで思い至らなかったが、相方に母乳を絞られるという強烈な体験はそうそう簡単に忘れられるものではない。普段はなんとか頭の引き出しにしまっておいたとしてもリビングなんかでやったとしたら記憶がそこに紐付けられて、羂索のうちにお邪魔するたび思い出してしまう。なら確かに羂索の言う通り、ほぼ入ることのない羂索の寝室でしたほうがまだこれからの精神的な被害も少ないように思えた。
「や、やっぱり寝室でお願いします……」
 観念して連れられるまま入った羂索の寝室はあまり物がなかった。初めて足を踏み入れたそこにはデスクとベッドとサイドチェスト、それとあと書棚がいくつか。遮光カーテンが引かれているせいもあるかもしれないが、全体的にモノトーンの印象で落ち着いた雰囲気の部屋だ。
「じゃあ髙羽、ここ座って」
 おずおずとどうしても足取りが遅くなる髙羽とは反対に、早くもベッドの縁に足を広げて腰掛けていた羂索がぽんぽんと自分の足の間を叩く。
 まあそうだよな、そうなるよな。向かい合ってやられるよりはいいけど、羂索に背中から抱き込まれるっていうのもどうなんだろう。絵面を考えるだけでもう居た堪れない。地獄じゃない、これ? 俺もだけど、それ以上に羂索が。
 そう思ったが、羂索だって好き好んでやろうとしているわけではないし、ならばなおさら羂索の厚意を無駄にしてはいけない。そう思って足を進めたが、実際のところは亀の歩みだった。
「え、えっと……その、シャツ脱いだほうがいい……?」
「私はどっちでもいいよ。君はどっちがいいの?」
「う、あ……じゃ、じゃあ……着たままで……」
 少しでもことを始めるまでの猶予が欲しくてあまり意味のない質問をしてみたが、居た堪れなさが跳ね上がっただけだった。変に確認してしまったことで逆にシャツを捲くり上げることにすら羞恥を感じる。
 いいやこうなったら一気にやってしまえと、羂索の足のあいだに座ってとっととシャツを捲くり上げようとしたが、羂索に背中を預けた段階で髙羽は伝え忘れていたことがあったことに気づき「あっ!」と声を上げた。
「ん? どうしたの髙羽」
「……あ、……え、えっと羂索……いっこ、言い忘れてたんだけど……っ、おれ……その、いま…………絆創膏、つけてて……」
「…………ばん、そーこー」
 恥ずかしさで震えようとする手をなんとか抑えながら髙羽はシャツを捲くり上げた。髙羽の言葉を確かめるように羂索が肩越しに髙羽の胸を覗き込む。そこには確かに髙羽の乳首を覆うようにふたつの絆創膏が貼られていた。
 本当だったらこの部屋に来る前に取るべきだったのだが、長時間つけていたことで髙羽はすっかりその存在を忘れてしまっていた。こうして乳首に絆創膏でも貼っていないと母乳で服が濡れてしまうのだ。
 お金に余裕があれば男性用ブラジャーと母乳パッドでも買って当てておけばよかったのかもしれないが、この非常事態のためだけにそんなものを買うほど髙羽の懐は温かくない。なので苦肉の策として絆創膏を貼っておいたのだが、相方から乳首に絆創膏を貼っていましたと言われた羂索の驚きは如何ほどのものだろう。驚くだけならいいのだが、最悪引かれる。そんな告白誰だって相方から聞きたくはないはずだ。絆創膏を確認した羂索から一向に反応が返ってこないのがまた怖い。いやこれ、絶対引かれた。
「け、羂索……? ご、ごめん。引いたよな……? でも、絆創膏つけてないと服濡れちゃうからこうするしかなくて……」
「いや、いやいやいやいやいやいや! ごめん、君は悪くないから気にしないで。現実を処理するのにちょっと時間がかかった。大丈夫、引いてない。なんというか、こう、青信号を渡っていたのに突然ダンプカーに撥ねられたというか、そこに想像してなかったサンクチュアリがあったというか……とにかく引いてないし、君は悪くないから本当に気にしないで」
 全力の否定に髙羽はほっと胸を安堵させたが、羂索はなぜか髙羽の肩に頭をついて、はぁああと深い息をついていた。そうかー、絆創膏、絆創膏ねー、そうかぁ、と何かを噛みしめるようにそこで羂索がぼそぼそと小声で呟いている。
 引いていないのには安心したが、処理落ちしたような状態になった羂索はそれはそれで気がかりだった。どう声をかけたものかと思ったが、羞恥心からも自分の立場からとしても何か言えるわけもなくただ羂索の回復を待っていると、それほど経たないうちに羂索が顔を上げた。
「……っよし、ごめん、待たせたね」
 羂索の言葉で髙羽の身体に改めて緊張が走る。これからする行為を再度自覚して、否が応にも心拍数が上がった。
「じゃあ髙羽、とりあえずこの絆創膏外すよ?」
「う、うん……」
 羂索の長い指がかりかりと絆創膏を掻いて外していく。ずっと絆創膏に覆われていた胸が開放されて、無意識にふるりと身体が震えた。吸収力を上げるためにあいだに挟んでいたガーゼはちゃんと仕事をしていてくれたようだが、それでも吸収しきれなかった母乳が乳首をてらてらと濡らしている。
 これを羂索に見られているかと思うとどうしても耳が熱くなった。母乳が出るようになってから以前より乳首がぷっくりと膨れてしまっているのも、髙羽の恥ずかしさに追い打ちをかける。
 羂索は髙羽のそんな胸の内を知ってか知らずか、なにも言うことはせず外した絆創膏とガーゼをベッドの脇にあったゴミ箱に捨てると、髙羽の胸を下から包むようにそっと両の手のひらで触れた。
「まずは、母乳の出をよくするためにマッサージしていくから痛かったら言って」
 もはや声も出せずこくりと頷くと、羂索は溜まっている母乳が流れるように外側から中心へと手のひら全体で柔らかく胸に圧をかけていった。髙羽の胸に沈みこむ羂索の手つきはやさしくて、本当にただ髙羽の身体を治すためにしてくれているのだと触れた手から伝わってくる。
「髙羽、痛くない?」
 痛みとはほど遠い、労りが滲むようなそれに髙羽はもう一度頷いた。
「そう、ならこのまま続けるよ」
 そのまま何度か外から内にと圧をかけられたが痛みが走ることは一度もなかった。むしろ羂索の手で揉まれたことでずっとあった胸の張りがやわらいで、揉まれるごとに痛みが少なくなっていく気がする。
 羂索の手が正しくマッサージのような手つきだったのもあり、髙羽の身体にあった強ばりも自然と抜けていった。
「髙羽、どう?」
「……なんか、羂索のおかげでちょっと胸、楽になった気がする」
 胸を揉む手はそのままに状態を問うてくる羂索に、髙羽は身体をゆるませて答えた。もう髙羽の身体からはさっきまであった強ばりは全くなくなっていた。
 そのまましばらく羂索に背中を預けてとろとろとマッサージの気持ちよさに身を委ねていると「じゃあマッサージはこれくらいでいいかな」と、羂索がおもむろに手の動きを変えた。
「ぅ、んっ」
 手のひらで包むような動きだったそれから、指先で乳首の周りをしぼるような動きに変わる。薄く色づいた周辺から中心に母乳を集めるように指先で両胸を揉みしだかれて髙羽の口から堪えきれない息が漏れ出た。
「んっ……う、……っふ、んん……っ」
 ゆるんでいた身体にもう一度力が入る。
 羂索は相方として髙羽の身体を治そうとしてくれているのだから、せめて自分の気持ち悪い声なんか聞かせないようにしたい。だけど、どれだけ頑張ってみても羂索の指先が自分の胸をしぼるように動くたび声が出てしまう。手で口を抑えられたら良かったが、シャツを抑えているせいでそれも出来ない。塞ぐことも出来ず、堪えることも出来ず、漏れ出る声を少しでも羂索から遠ざけたくて、髙羽の身体はずるずると前に倒れていった。
「こら髙羽、逃げるな」
 逃げるように前へ倒れていった髙羽の身体を追い、羂索がもう一度ぴったりと髙羽の背中に身体を密着させる。いったん離れてしまったせいで、さっきまでは気にしていなかった羂索のシャツのざらりとした感触が髙羽の肌を泡立たせた。肌を晒している自分と普段どおりの羂索がベッドの上で触れ合っているという事実に改めて襲われて、髙羽の身体を羞恥が駆け巡った。
「う、ぁ……っ」
 母乳は出さないといけないし、自分では出すことが出来なかった以上羂索にやってもらうのが最適解だというのは分かっている。分かっているが、髙羽は恥ずかしさで泣きそうだった。
 自分の身体のことなのに自分では対処できなかったという恥ずかしさ。羂索の手を煩わせてしまっているという恥ずかしさ。ベッドの上で羂索に胸を触られているという恥ずかしさ。
 羞恥心に致死量があるというのなら髙羽はもうとっくに死んでいる。羞恥で涙を滲ませながら髙羽が声を殺して震えていると、黙って治療に専念していた羂索から声がかかった。
「ねぇ、もしかして恥ずかしいとか思ってる?」
「ふ、ぇ……?」
 不意にかけられた声に思わず振り向くと、そこには真剣な表情で髙羽を見つめる羂索がいた。
「いいかい髙羽、これは病気みたいなものだ。こうなったのは君が悪いわけじゃない。自分ひとりで解決できるならそれはそれでいいのかもしれないけれど、病気のときに人に頼ることはいけないことじゃないだろう?」
 だから、恥ずかしがるようなことじゃないんだよ、と髙羽を安心させるように落ち着いた声で話す羂索に髙羽の目から涙がじわりとこぼれ落ちた。
 羂索はなんで自分の気持ちが分かるんだろう。なんで欲しいときに欲しい言葉をくれるんだろう。
 羂索のおかげでさっきまであった恥ずかしい気持ちがしぼんでいく。全くなくなったわけじゃないけれど、自分のこともひとりで出来ずに羂索に迷惑をかけてしまっているという情けなさにも似た羞恥心は影を潜めた。
 詰めていた息を開放するように吐き出すと「続き、してもいいかな?」と問われて髙羽は声を出さずに頷いた。
 指の動きが再開されて、ぎゅうとまた乳首のまわりをしぼられる。とろとろと出てくる母乳が羂索の指先を濡らしていくのが見えて、かあっと身のうちに火が灯った。
「ふ、ぅ……んっ……う……っ」
「あとさっきから声我慢してるみたいだけど抑えないでいいよ。その方が力も抜けるだろうし、母乳も出やすくなると思うから」
 羂索にそう言われて、かたく噤んでいた口をゆるめると確かに身体から力が抜けていく。一度ゆるめてしまうともう声を抑えることは出来なかった。
 羂索の指にいざなわれるまま声をこぼしていると、周囲に触れるに留めていた羂索の指が不意に中心に触れた。あ、と思う間もなくそのまま軽くつままれて、その瞬間ひときわ高い声が髙羽の口から溢れ出た。
「ひぁ! ふ、やぁっああ……っ、ひぅ、っぁ……!」
「うん髙羽、声出すの上手だね。えらいえらい。その調子で我慢しないで声出していこう」
 いい子いい子、と摘んだあとにまるで褒めるようにやさしく乳首を慰撫されて髙羽の中に甘だるい熱が溜まっていく。自分で触ったときはこんな風にならなかったのに、羂索に触れられるとじんじんと痛みだけじゃない痺れが走った。
「やぁ──っ! うぁっ……ひ、っぃあ、あ、んゃああっ」
「髙羽、気持ちいい?」
「……ぃ、いいっ……あ、きもちぃ、……っ、う、あ、けんじゃ、くっ……けんじゃく、きもちいい、からぁ……ひ、あ……!」
 ぎゅうと強めに摘まれたかと思ったら、爪先でかりかりと先端を掻かれる。両方の乳首を捏ねられることもあれば、片方だけ甘く虐められて髙羽は羂索の指に翻弄されるしかなかった。
 痛くて気持ちよくて視界が滲んでゆがむ。じわじわとさっきよりも量を増した母乳が溢れ出て羂索の指を濡らしながら髙羽の肌を伝っていった。羂索の指だけではなく母乳が肌を伝うその感触にすら煽られて、溜まっていくばかりの熱が開放を求めて渦巻いている。
 息を乱して指と熱にただ声を上げるしかない髙羽の耳にふっと羂索の吐息が触れた。
「──髙羽」
「ひぅっ……! あ、ゃぁあああっ……!!」
 吐息とともに名前を呼ばれた瞬間、髙羽の胸からぴゅくりと母乳が溢れ出た。
「ぅ、あ! あ……ぁ……っ」
 やさしく絞り出すように羂索の指が乳首を摘むとその度にぴゅくぴゅくと跳ねるように母乳が出ていく。羂索の指も手のひらも母乳でしとどに濡れて、薄い乳白色に塗れた指先がぬるぬると乳首を滑った。
「ひ、ひっ……ひ、ぅ……っ」
 ぴゅ、ぴゅっと出し切るように羂索が乳首をしごくがいつまで経ってもそれに終わりは見えなかった。あくまで出し切るためにしているだけで羂索にそのつもりはないのだろうけれど、ぬめった指でしぼられるのですら今の髙羽にはつらかった。
 過敏になった乳首が赤くなっていてぴりぴりする。それでも引きつった息をつきながら何とか呼吸を整えていると、不意に後ろの羂索から「まだ出そうだな……」と思案するような声が聞こえた。
 その言葉の意味を理解する前に「ねぇ、ちょっといい?」と羂索にベッドに上げられてそのままくったりと横たえられる。
 自分を見下ろすようにベッドに膝をつく羂索を熱に浮かされたままぼんやりと見ていると、羂索が覆いかぶさるように手をついた。
「髙羽、ちょっと舐めるよ」
 なめるって、なにを……? そんなことをとろとろと考えていると、ぬるりと乳首が熱いものに包まれた。
「ひ! や、っ! けんじゃくっ、けんじゃ、く……! ……っぃやだ、なにして……っひあ……!」
 羂索の口が自分の胸を食んでいる。
 自分の乳首を包む熱いそれがなんなのか理解した瞬間、髙羽の頭のなかは真っ赤に染まった。
 熱い熱い熱い熱い。羂索の指で十分に敏感になっていた乳首をぬめった粘膜が捏ねていく。ざらりとした舌にやわく潰されてその度にびりびりと甘い痺れが髙羽の身体を走った。
「や、やだ……! けんじゃく、はなし……っ、ひぃ……っ!」
「やらやないれひょ」
「っひあ! ひ、ぅ、やぁああああ……っ」
 喋るあいだも羂索は口を離してくれないから、その舌の動きさえも刺激になって髙羽を苛んでいく。
 ちゅ、ちゅう、と舐めて吸われて、見えないのに羂索に可愛がられている乳首から母乳が溢れ出るのが分かった。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。なのに、気持ちいい。コントロール出来ない身体がびくびくと跳ねて、まるでもっとと言うように羂索の舌に胸を押しつける。溜まっていた母乳が排出されていく快感と、ぬめぬめと動く粘膜から齎される初めての快楽でなにも考えることが出来なくなる。
 永遠に落下していく空間にぽんと投げ出されたような心地。果てがなくて、いつが終わりかも分からない。それが羂索から齎されているのだとしても、落ち続けるだけの髙羽が手を伸ばす先はひとつしかなくて、すがるように自分の胸を責め苛む頭に触れた。
 力の入らない手がくしゃりと濡羽色の髪を乱すと、母乳を舐め取っていた舌の動きが驚いたようにぴたりと止まった。
「は、ぅ……ぁ、……っ」
 だけどそれも一瞬のことだ。不意に訪れた休息に安堵する間もなく、今度は厚い舌がぐりぐりと乳首を押し潰した。
「ひぅ! け、けんじゃく……! それ、それだめ、ぇっ……ぐりぐり、やぁっ……! ぐりぐりやだぁ……っ、ひぁ、ああああっ!」
 羂索は髙羽の声など聞こえてないかのように、責めるように刺激を与えていく。
 押し潰されたと思ったら急にゆるめられて、今度はぢゅうっと吸われて、強すぎる快楽に翻弄されて髙羽はもう喘ぐことしか出来なかった。
「あ、ぅっ……や! あ、ぁ、やぁあああっ……、ひあ……っんぁあああ、あっ……!!」
 髙羽が声を上げれば上げるほど羂索の責めは苛烈になっていく。そのたびに母乳が溢れ出るのが分かって、恥ずかしいと気持ちいいが際限なく髙羽を襲った。
 吸われながら出し切るように指でも胸を揉まれると、吸われる快感と押し出される快感でますます頭が馬鹿になる。早く終わらせて欲しい。気持ちいい。こわれる。もっとしたい。
 どうなりたいのか自分でも分からぬまま、声を出してもだえていると不意に羂索の歯がきゅうと乳首を噛んだ。
「ひぃ、ぁああああああああ──っ!!」
 ぷしゃり、と今まで溜まっていた母乳が一度に弾け出る感覚。ばちばちと快感が走って目の前が真っ白になる。
 その電気のような快感が収まるよりも先に齧るようにまた乳首を歯で挟まれて、髙羽の身体はびくびくと震えた。
「やぁ……っ! けんじゃくっ……け、んじゃく、……っ」
 丸めたつま先がシーツを掻いて白い波を作っていく。食まれるごとに母乳がぷしゃぷしゃと溢れ出た。溢れた先から一滴ですら漏らさないように羂索がそれを吸い尽くしていく。
「ひ、う……っ、あ、ぁ……ゃ──っ」
 ぢゅうと母乳を吸われるたび快楽の残火が髙羽の身体をじりじりと焼く。いつまで経っても終わらないそれに髙羽の息はちいさく跳ねつづけた。
 自分の引きつった呼吸の音と羂索が母乳を吸う濡れた音だけが静かな部屋に響く。
 とろ火のような熱だけではなく、耳からも犯されるような心地に身体を震わせていると、ぢゅ、ちゅ、ちゅう、と僅かに残った残滓まで吸い尽くして、羂索がようやく胸から口を離して身体を上げた。
「っはぁ……、あっま……」
 母乳で濡れた口元を羂索が指で拭う。
 その羂索の様子を滲んだ視界で眺めながら、これでやっと終わったのだと髙羽は熱い息を吐き出した。
 最後に出し切った感覚が確かにあった。だから、たぶんもうこれ以上出ることはないはずだ。恥ずかしかったし、恥ずかしかったし、これ以上続いたら本当に死んでしまうと思うほど恥ずかしかったけれど、これで一週間続いた母乳の悩みからさよなら出来ると思ったらそれだけで救われた心地がした。
 天国のような地獄のような時間が終わり、乱れた呼吸を整えながらそんなことをふわふわと考えていると、ふと影が落ちた。顔を上げたはずの羂索が何故かもう一度髙羽に覆い被さっている。
 なんでだろう、とまだあまり働いていない頭をゆるゆる動かしていると羂索の指がさっき吸い尽くされた胸とは違う方に触れた。じわ、と母乳が滲み出る感覚に髙羽の身体がびくりと跳ねる。
 羂索はそんな髙羽を見下ろすと、
「──じゃあ、髙羽。もう片方もね」
 そう言って、目を細めて笑った。


20240216